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東京高等裁判所 平成5年(ネ)1746号 判決

控訴人 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右指定代理人 西道隆 外三名

被控訴人 内藤隆

右訴訟代理人弁護士 別紙被控訴人訴訟代理人目録記載のとおり

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張、証拠及び当裁判所の判断

当事者の主張及び当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正し、第三で当審における証拠についての当裁判所の判断を示すほかは、原判決の「事実及び理由」欄に記載のとおりであり、証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりである。

一  原判決四六頁一行目に「権限」とあるのを「権限について定めること」と改める。

二  同七〇頁二行目に「厚みをや」とあるのを「厚みや」と改める。

三  同七四頁四行目の「一二七頁」の次に「。なお、一二七頁の証言は、被控訴人が楯に足をぶつけてきたのでE巡査が一、二歩後退し、元に戻ったという間のことについて述べているようにも解されるが、同証言一一四~一一六頁は、明らかに、AらがE巡査の楯にぶつかってきた際に、Aらのうち先頭にいた者の身体は機動隊員の列から外に出ていないとしている。」を加える。

四  同七六頁一〇行目の末尾に「なお、被控訴人は、被控訴人の供述によれば右一団が約五メートル移動したことになることを認めているが(一〇〇頁)、当初の位置である約一〇メートルも、その後の位置である約五メートルも、いずれも目測によるものであって、正確性は保証できないとも供述しているのであるから(二四頁、三三頁)、右各距離についての供述を根拠に約五メートル移動したと認めることはできない。」を加える。

五  同七九頁六行目の「閉じられていたのに」の次に「(伊藤証言一〇~一一頁、A証言四二頁)」を加える。

六  同八三頁一行目の「被告」から二行目の「一八~二〇)」までを「戦旗荒派は機関紙等で本件集会等への参加を呼びかけており、そのほかに第四インター、プロレタリア青年同盟等が本件集会等に参加する旨の情報があり(乙一八~二〇、上田証言五頁、土屋証言五~六、五七頁)」と改める。

七  同八三頁四行目に「乙一~八」とあるのを「乙一~四、六~八」と改める。

八  同八五頁九行目に「右の職務質問に該当するものではない」とあるのを「違法なものである」と改める。

九  同九〇頁四行目の「所持品検査」から五行目の「認められるとしても、」までを削除する。

一〇  同九三頁五行目の「また」から一〇行目末尾までを削除する。

一一  同一〇二頁七行目の次に、行を変えて、次のとおり加える。

「五 E巡査の故意・過失について

以上認定の事実によれば、E巡査は被控訴人に公務執行妨害罪に該当する行為があったと誤認したものであって、同巡査に過失があったことは明らかである。」

一二  同一〇二頁八行目に「五」とあるのを「六」と改める。

第三当審における証拠についての当裁判所の判断

一  乙第二九号証(鑑定書)について

乙第二九号証は、検甲第一号証のビデオテープに録音されているという「コン」という音と検乙第一号証のビデオテープに録音されている楯に身体をぶつけた際に発生している音の双方をサウンドスペクトログラフで分析して、後者のうち再現性があると思われる周波数成分と比較すると、前者の周波数成分は上限においておよそ七~一〇ヘルツ程度後者よりも高い、としている。

しかし、このことによってこの双方の音についてどのような結論が導き出せるのか明らかではないから、乙第二九号証によって、控訴人主張の、両者の類似性が高いという事実が裏付けられることにはならない。

二  当審証人竹林伴記の証言について

同証人は、被控訴人の右足の膝の側面がE巡査の楯の中央部にぶつかったのを目撃したが、被控訴人の右足は地面から浮き上がっており、被控訴人が足を上げていることと、その直前に「やめろ」等と叫びながら検問をしている機動隊員の列に向かってきた言動から考えて、故意があったものと思われる、と証言している。

しかし、同証人は、右の事実を目撃した状況について、被検問者ともみ合っている最中に視線を下に落としていたところ、たまたま被控訴人の下半身が見えたと証言しており、やや不自然の感があることは否定できない。また、右の事実を目撃して違法行為であると思ったというのであるが、被控訴人を検挙するという行動には出ていない。この点も首肯することができない。したがって、右証言を直ちに採用することはできず、これによって被控訴人に公務執行妨害罪に該当する行為があったことが裏付けられるものとはいい難い。

なお、仮に右の目撃事実に関する証言が採用できるものであるとしても、被控訴人の足がE巡査の楯に接触した事実が認定できるに留まるのであって、少なくとも被控訴人の行為が故意によるものであると認定することはできない。

第四結論

以上のとおり、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋欣一 裁判官 矢崎秀一 裁判官 及川憲夫)

別紙 被控訴人訴訟代理人目録

辻誠 竹之内明 堂野尚志 森井利和 杉野修平 山崎惠 川端和治 浅野憲一 中根洋一 飯田正剛 木村濱雄 栗山れい子 鳥越溥 後藤昌次郎 吉田健 幣原廣 芳永克彦 内田雅敏 清井礼司 糠谷秀剛 野上邦五郎 久木野利光 掘合辰夫 高畑満 的場徹 鈴木一郎 堀士忠男 津田和彦 佐竹俊之

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